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こんにちは、アーティストのWasaViです。

大学の頃、教授にこのような質問を頂きました。

「この世界にはどうして国境があると思う?」

その時の教授の答えを今でも覚えています。

それは「異文化同士、100%分かり合うことは難しいから」です。

分かり合えないからこそ国境を敷いて、自分達の文化を大切に生きていけるのだと仰っていました。

異文化を尊重することは非常に大切ですが、全てを心から分かり合って混ざり合うのはとても難しい。

なぜなら文化というものは「気候」という存在に大きく影響されるからです。

寒かったり暑かったり、雨が多かったり乾燥していたり。

その土地に合わせた文化や思想が形成されます。

それは音楽にも当てはまります。

世界各地の諸民族はそれぞれの気候にあった音の作り方を持っています。

「音楽に国境はない」という名言がありますが、逆に国境に音楽はあります。

今日は音楽と気候の関係性について見ていきます。


気候によって好まれる音が違う


寒冷地域(※1)と温暖多湿地域とで好まれる音の傾向に大きな差があります。

結論からいうと、寒冷地域の楽器はリコーダーなど静かな音が好まれるのに対して、温暖多湿な地域の楽器は太鼓など刺激的な音が好まれます。

なぜでしょうか。

答えの鍵は両地域の「建物」にあります。

寒冷地域と温暖地域の建物を考えてみてください。

寒い地域では室内が寒くならないように、石などの分厚い壁を持つ建物が多いです。

そこで出された音は周囲の壁にぶつかって反射されるので、音が響きやすいという特徴があります。

The Celtic house was usually circular, with a large sloping roof of straw and walls made of stone or wood※ケルト民族の家

対して暖かく湿気の多い地域では、風通しを良くするために開放的な建物が作られます。

風通しの良い場所で出た音は反射する壁も少ないので音が響きません

Gamelan - Wikipedia※ガムラン演奏の様子

この音の響きの差が、両者の好む音に影響を与えます。

寒冷地域の音楽は響きやすい室内で演奏されることが多いので、音の響きも楽しめるように静かな音が好まれます。

むしろ刺激的な音を多用すると、響きすぎて不快に感じるでしょう。

反対に温暖多湿な地域の音楽は、開放的な建物で演奏されることが多いので静かな音は「聞こえ辛い」という評価になります。

だから刺激的な音が多くなります。

因みにこの差は音楽だけではなく、両地域で話されている言語においても例を見ることができます。

タイ語やベトナム語の発音は比較的ハキハキしているのに対して、ロシア語やスウェーデン語は比較的平坦な印象がありませんか?

(※1) この章の最初で寒冷地域の家を例に挙げましたが、イタリアなど温暖なヨーロッパの地域でも、石の壁を用いることがあります

夏の日差しが非常に強く、一部では40℃を超す猛暑になるからです。

石の壁を用いることで日光の暑さを家に入れないようにしているわけです。


気候によって好まれる楽器が異なる


気候によって好まれる音が異なるということは、気候によって好まれる楽器が違うということです。

刺激的な音を出す楽器といえば、シンバルや太鼓などの打楽器がありますが

世界で最も打楽器が少ない地域の一つが、寒冷地域が多いヨーロッパです。

対して東南アジアやアフリカなど湿度の高い地域には、打楽器の宝庫とも言えるほど多種多様な打楽器が存在します。

では静かな音についてはどうでしょうか?弦楽器を例に見ていきます。

ヨーロッパの弦楽器といえばヴァイオリンです。

糸を弓で擦るという、非常に繊細な方法で演奏されるこの楽器ですが、

湿気の多い日本に「糸を弓で擦る」楽器は1つしかありません。(胡弓)

更に日本にも三味線や琵琶などの弦楽器はありますが、それもバチで弦を打って演奏される打楽器的な要素を含む楽器になります。

三味線の手元のアップ 顔無し

このように各気候によって発達する楽器が異なるのも、面白いポイントです。


気候が楽器の形を変える


気候によって楽器の作られ方も異なります。

特に木を使う楽器の作られ方は違いが明確です。

なぜなら、湿度によって木の形は変化するからです。

これは楽器作りにおいて見逃せません。

例えば、1mのエゾ松の板のサイズが気候によってどのくらい変化するか見てみましょう。

まず最初に、東京とウィーンの降水量の差を見ていきましょう。

  1. 上が東京で下がウィーンです。緑の棒グラフが降水量となっています。(右に降水量の数字が書かれています。)

気象庁|世界の天候 | 世界の平年値について

graph

東京の降水量は一年を通して200mmほど違うのに対して、ウィーンではたったの30mmとなっており

ウィーンは湿度が一年を通して安定していることを示しています。

次に1mのエゾ松の板のサイズが両地域でどのくらい変わるか見ていきます。

なんと東京では一年で約20mm変化するのに対して、ウィーンではたったの約7mmの変化に収まります。

この気候の違いが、両地域で作られる楽器の形に影響を与えます。

ヨーロッパで作られる木の楽器(ヴァイオリンやギターなど)は厚さ3mmにも満たない薄い板が精密に組み立てられています。

薄い板でも一年を通してそこまで変化がないからです。

このような楽器は比較的明るく軽い音を出します。

反対に高温多湿な地域の木の楽器の多くは一本の木をくり抜かれたものか、そのままの瓢箪や竹筒に皮を被せて弦を張った形が多いです。

 ※ハワイの瓢箪の楽器

薄い木を組み合わせて使って制作すると、例えば冬はよかったけど、夏には各パーツが大きくなって壊れてしまう可能性があるためです。

このような楽器はズーンとした暗い音を出す傾向にあります。

また、高温多湿な地域は寒かったり乾燥している地域よりも木が多く、贅沢に使えるという理由もありそうです。


気候が「ハーモニー」という価値観を生んだ


気候による響きの差は、音楽の価値観にも影響を与えます。

皆さんが普段耳にする音楽、PopsもRockもHipHopも、ほとんどがクラシック音楽をベースにしています。

そのクラシックには「音楽の三要素」というものがあります。

それは「①リズム」「②メロディー」「③ハーモニー」です。

この中でクラシック音楽を最もクラシックたらしめているものは、③のハーモニーでしょう。

ハーモニーとは異なる音の調和のことで、かなり雑にいうと「ドミソは綺麗」みたいなものです。

リズムやメロディーは他の地域の音楽にもありますが、ハーモニーは育ちませんでした。

なぜでしょうか。

それを知るにはクラシックの歴史を辿る必要があります。

クラシック音楽のルーツは教会で歌われる聖歌にあります。

西洋の教会というのはもちろん壁に囲まれた構造をしているので、音がよく響きます。

さらに聖歌というのは神に捧げる音楽なので美しい必要があります。

音が響く場所で美しい音楽を作らなくてはならないので、西洋では音の調和が重要視され

「ハーモニー」が非常に発達したのです。

(細かい歴史はまた後日の記事にて…)

ちなみに「西洋でハーモニーが発展したのは、古代ギリシャで数学が研究されてきた土台があるからじゃないの?」と思う方もいるかもしれません。

まさにその通りで、ハーモニーは数学的に分析されるものであり、それを可能にしたのは古代ギリシャで数学が発展したからでしょう。

しかし、古代中国でも数学は発達していましたし、なんなら12音階も発見されています。

ただ中国ではハーモニーは発展しませんでした。

そこには、古代ギリシャと違い、中国では音楽を数学ではなく儒教と絡めたなどの背景もあるのですが、

音の響きはあまり大切ではない気候だったからというのもあると思います。


気候と演奏方法の関係性


では土地によって演奏にはどのような違いがあるのでしょうか?

最初に日本の演奏を見ていきます。

「一音成仏」という言葉を知っていますか?

尺八に関連する言葉で、「一音を聞くだけで仏になれるほどいい音」という意味があります。

尺八を吹く日本人の中年男性の手元のアップ

尺八というのは非常に音を出すのが難しい楽器で、奏者によって音程も異なるなど、奏者の個性が顕著に現れる楽器です。

つまり日本の楽器は奏者によって音が異なる「不安定な」楽器となります。

反対にクラシックでは徹底的に「不安定さ」を取り除く努力が行われてきました。

クラシック音楽は主に室内で演奏されるため、楽器の細かな音も響きやすく、クセが多いとあまりにも目立ちすぎてしまいます。

楽器を演奏するときの「雑音」の有無にもこの違いは見ることができます。

ヨーロッパ文化圏の楽器ではなるべく雑音が出ないように作られ、演奏されるのに対して

日本人は尺八を吹く時に出る掠れた音や、三味線の糸を弾くときに出る雑音の中に美的感覚を見出してきました。

鹿おどしのカコーンという雑音を楽しむというのも日本ならではです。


「エ / e」は避けられる音?


では逆に気候を超えて同じ価値観のものは何があるでしょうか?

たくさんあると思いますが、ここでは「エ」の音を例にあげます。

衝撃の事実ですが音楽の中での「エ」の音は品がない音として認識されています。

実際西洋の声楽では「e」の音を延ばすことを出来るだけ避け、「i」と変えて歌う場合があります。

僕の声楽の先生も「一番美しく発音するのが難しい音はe」と仰っていました。

東洋を見ても、どうやら「エ」の音は避けられているようで

歌の中にエの音を多く入れると卑しく聞こえるという音響学者もいます。

そんなことあるかいな」と感じるかと思いますので、ここに音韻学の例を挙げます。

高い笛は「ピー」となります。iの音です。

トランペットは「パッパパー」、aの音です。

チューバなどは「プーやポー」、u, oの音です。

ここで「ペー」と聞くと、何か間抜けな感じがしませんか?

違う例で言うと、エから始まる擬音語はどこか品がないイメージがある言葉が多いです。

「ペロペロ」「デロデロ」「ケラケラ」など。

音の感じ方にはもちろん個人差があるので一概にはいえませんが、あなたはどう感じますか?


まとめ


この記事では気候が音楽に与える影響について見てきました。

我々人間が暮らすこの地球には様々な自然環境があります。

私たちが気候に合わせて生活するように、もちろん音楽も気候に影響されます。

乾燥している地域は、乾燥しているから育てられた音があるし

暑い地域は、暑い地域だからこそ輝く音がある。

それは日本においても同じで、和楽器の音というのは日本の自然環境と人間が手を結んで生み出した音です。

もし今後クラシックを含めたワールドミュージックを聞く機会があれば、その土地の自然環境に思いを馳せながら聞いてみてはいかがでしょうか?

次回からは西洋音楽「クラシック音楽」の歴史を順番に見ていきます。

第一回は、クラシックの歴史はギリシャ神話まで遡る

お楽しみに。

WasaVi

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